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大画面に輝く生命力

朝日新聞 創作ファイル

 鮮やかなアクリル絵の具が画布の上で輝きを放つ。十二点はいずれも大作ばかり。最も大きいものは縦194cm、横448cmの大画面 で迫ってくる。
 抽象表現主義的な作風だが、どれも花を描いた絵だ。バラやトルコキキョウを凝視し、大きなカンバスに一つを拡大して描く。
 太めのはけで、うねるように絵の具を塗り重ねる。そのなかから新たなイメージが浮かび、次のタッチが決まる。繰り返しから画想が固まってくるという。
 長野市生まれ。1979年に東京芸大を卒業した。花を描き始めたのは84年ごろからで、京都での個展は三度目になる。
 最初のころは、小ぶりな紙に具象的な花を描いていた。大きな画布に向かいだした90年ごろから、抽象化が加速した。色彩 も年を追って華やかになる。
 かつては絵を描かない画学生だった。油絵を専攻したにもかかわらず、絵画は古くさい表現手段に思え、インスタレーションなどの新しい美術表現に没頭する。「日常世界の認識を覆すのがアート」と信じて疑わなかった。
 82年に結婚を機に長野に戻り、出産や家族の死をわずかな間に経験する。それが転機だった。
「人生とか芸術は理論じゃない。自分のやってきたことに、どれほど現実味が乏しかったか」。散歩して足元にあった花を「きれいだ」と素朴に思えた気持ちが、絵画への回帰にもなったという。
 こうした変遷をどう評価するかは、意見が分かれるだろうが、ともかく画面 には、ほとばしるような熱気があふれる。リルケがバラを見つめ、無限の内的世界をうたったのにも似て、宇宙的な広がりを感じさせるのも生命力という裏打ちを得たからだろう。
 
1998年 朝日新聞 「創作ファイル」

小山利枝子展
1998年3月10日~3月21日
ギャラリー16/京都



京都新聞 展評


小山利枝子の三年ぶりの京都個展には、自然現象の霊気を連想させるような絵画が並ぶ。すべて花のデッサンから出発した絵だが、絵の具を塗るハケや筆のタッチは流動的なうねりとなり、光彩 に満ちた水や大気の流れを連想させる。このところ続けている作画が、オーロラのような神秘を伴って、より奔放になったというべきか。
 
1998年3月14日 京都新聞 「展評」

小山利枝子展
1998年3月10日~3月21日
ギャラリー16/京都

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