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光で表現する神秘

中村隆夫(多摩美術大学助教授)

 現代実術の手法(6)「光とその表現」展

 「神は言われた。『光あれ』こうして光があった」。そしてゲーテは最期に、「もっと光を」という言葉を残した。「光」とは常に私たちに普遍的なもの、神 秘的なものを連想させてきた。テクノロジーがすさまじい勢いで発達し、加速度的に物質が氾濫する今日にあって、「光」は今も形而上学的な輝きを保ち続けて いるのだろうか。
 出品作家は石井勢津子、上田薫、瑛九、倉重光則、小山利枝子、作間敏宏、佐藤時啓、杉本博司、高橋洋子、徳永雅之、菱山裕子、山口勝弘、吉永裕の十三 人。光をどのように作品の中に取り込むか、光を物資的なものととらえるのか否か、本展を見る興味は尽きない。その中で「二人展」を組んだら面 白いと思ったのが、小山利枝子と高橋洋子であった。
 小山は花を入念に観察し、写実的なデッサンを繰り返す。花弁を顕微鏡ででものぞいたかのように拡大し、そこに流れる無数のニュアンスの曲線を描く。一見 すると彼女の作品は抽象絵画のようである。この曲線は微視的な細部に過ぎないが、それが山の稜線や広大な自然を彷彿とさせる。そして彼女が画面 に施すのは、夕焼けの空の光である。
 高橋洋子の作品は、大きな青い光のスクリーンに水紋が広がる様が拡大され、それがスクリーン手前の大きなプールの水面 に反射する。スクリーン上の水の波紋は、その向こう側にある小さなプールに上から水滴を垂らしてできたもので、水滴と照明の間隔等はコンピューターで制御 きれている。そこに水が滴る静かな音が加わるや青い光は地上のすべての生命が誕生した原始の海である、と彼女は言う。忘れていた生命のリズムが体内によみ がえるのを感じる。
 アクリルの絵画と装置を使ったインスタレーション。この二人には何の共通 性もないようだが、小字宙と大字宙の照応、テクノロジーと神秘の関係という、近代科学が見失ってしまった神秘の次元がそこにある。芸術とは普遍的なものを直観し伝達する魔術である、などと言ったら奇異に響くだろうか。

 
2001年8月30日 東京新聞夕刊 「美術」欄

現代実術の手法(6)「光とその表現」展
2001年8月19日~9月24日
練馬区立美術館/東京



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