伊那谷の美シリーズ5
 今、郷土によみがえる 小松良和 展

<自画像>1971年

 36年の短い人生を生き急いだ画家、小松良和。

  小松は、小学校3年生のとき初めて油彩画を描きます。後に絵画の道に進むことを決意、東京芸術大学では油絵を専攻しました。しかし、具象絵画を描き続ける ことに疑問を感じ、事物を描く高い技術と才能を持った自分自身をうらむ程、制作の方向性に悩みました。

  そして作品は平面からインスタレーション(設置芸術)に移り変わっていきます。制作への模索は続き、実家に戻った1983年頃から平面 へと回帰し、抽象芸術を目指しました。何かのイメージを描くのではなく、描くという行為によって生まれる最小限の形、色、線の表出、描くという行為の絵画化を試みたのです。しかしその画面 は、透明な美しささえはらんでいます。

  本展では、約80展の作品により、具象から抽象への移行のプロセスを辿り、画家の芸術を展望します。



■略歴
1949 長野県伊那市西箕輪に生まれる
1974 東京芸術大学卒業
大橋賞 受賞 渡欧
1976 同大学大学院終了
研究生として大学に残るが、 自己の制作を模索し、半年後に芸大を去る。作品は、平面 からインスタレーションに移行、活発に発表をしていく
1979 結婚
1981 長野県に帰る
制作に苦悩する
1983 実家に戻る
1984 アトリエ完成
精力的に絵画制作を進め
1985 7月他界

個展、グループ展で活躍

<作品>1984年



<Landscape'84 気流の音>1984年



小松良和展 開催にあたって

 新しい年が始まりました。初春とはいえ厳しい寒さですが、皆様におかれましては、、ますます御清祥のこととお慶び申しあげます。

 さてこの度、長野県伊那文化会館にて、「伊那谷の美シリーズ5 今、郷土によみがえる小松良和 展」が開催される事になりました。社会的には無名といえ る小松の作品を、亡くなってから20年近くの月日が流れた今まで、忘れずにおられた方々の熱い思いが、今回の展覧会を実現させてくださいました。

 2001年の辰野美術館における企画展で、小松の作品に初めて出会い、強い印象を待たれた方々からのうれしい感想が私のもとに届いた時、小松が遺して いった作品の持つ力を改めて強く感じました。めまぐるしく変化する美術を取りまく状況の中で、作家の意図を越えて、作品は自立して存在し続け、過ぎ去って いく時間に洗われていくように、その真価が顕れてきます。小松は当時の状況下で、悩みながら、自分の表現を模索し、晩年は絵画制作を再開しながらも、確信 をもって制作するといった境地には達することなく、表現は未完のままピリオドがうたれました。

 今回の展覧会には、高校時代の作品から晩年の作品まで、約80点が展示されます。すべての作品が、小松の求め続けた芸術の崇高さを示していると思いま す。小松は常に自分の現状に満足する事なく、厳しく作品と対峙していました。そのことからくる純粋さが、どの時代の作品を観ても感じられます。しかし、残 念ながら作家として独自のスタイルを確立する段階にはいたりませんでした。にもかかわらず、それぞれの作品からは、絵画でしか表現できないみずみずしい美 しさが立ち上ってきます。安定した確かなデッサン、堅固でありながら呼吸している様なマチエール、そして、なにより美しい色彩 、小松が画家としての非凡な資質に恵まれていた事を、学生時代の具象作品から晩年の作品にいたるすべてが示しています。小松が亡くなった当時より、20年 近くが過ぎ去った今、それは、よりはっきり感じられるのではないでしょうか。

 小松がなくなった時2才だった娘は、今年二十歳になります。私も、まがりなりにも画家として現在まで活動を続けて来ることができました。そして、今、小 松の作品と画家として対峙しています。より多くの方に、小松の作品を観ていただきたい。それは、画家としての私の願いです。 


2003年 1月 小山利枝子
      

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